熱しやすく冷めやすい患者さまは「心」で掴む。

気持ちのいい晴天が広がる取材当日、治療院前で小林善彦院長を撮影していたところに1台のクルマが通りかかった。中から笑顔の年配女性が顔を出し、まるで息子に話しかけるような気さくさで小林院長に声をかける。「先生! 天気がいいね。なんで写真撮ってるの?」「○○さん、こんにちは。雑誌の取材なんですよ。そうそう、この前診た身体の具合はどうですか?」この「東邦鍼灸接骨院」が、地域の一員として愛されている治療院であることを実感させるワンシーンだった。これまで「繁盛院探検隊」では、東京周辺の繁盛院を中心に取材を進めてきたが、今回は少し離れた山梨県の治療院へ突撃。地域が違えば、まず大きく異なるのが患者さまの性質だろう。そこで、まずはどんな症例が多いのか、どんな価値観を持った方が多いのかうかがった。

「午前中から昼にかけての時間帯は年配の方や主婦の患者さま、夕方頃には学生の患者さま、もう少し遅い時間になると仕事帰りの方がいらっしゃいます。これは南関東の治療院とそう変わらないのではないでしょうか。ただ、甲府の方は〝熱しやすく冷めやすい〟患者さまが多いと感じますね。たとえ発展途上の先生が施術にあたったとしても、患者さまを思う一生懸命な気持ちが伝われば『技術はまだまだだけれどよい先生だね、これからもよろしく頼むよ』と言っていただけるようなことが多いです。逆にどんなに上手くても気持ちが入っていなければ、患者さまにすぐさま察知され、その後いらっしゃらなくなることもあります。しかも地域コミュニティの結束力が強いため、よいも悪いも評判はすぐに伝播していってしまうのです。私たち治療院は地域からの信頼があって初めて継続できる存在。だから私たちは常に患者さまを思う治療を心がけ、地域・患者さまに認められる治療院であり続けることに注力しています」。東邦鍼灸接骨院には小学生のときに初診来院して以来、大学生になったいまも通い続けている患者さまや、家族ぐるみで来院されている方も多くいるそうだ。クチコミからの新患も多く、これは患者さまからの強い信頼あってこそ成し得る集客術といえるだろう。
失敗は許されない。患者さまは王様と考える。

患者さまの信頼を獲得するために、具体的にはどんな取り組みをしているのだろうか。
「院内のさまざまなことに対する〝気づき〟をもっとも大切にしています。スリッパの並べ方やタオルのたたみ方ひとつとってもそう。日常の中で気づく力が養われれば、自然と施術に関しても気がつくようになります。患者さまからご要望を受ける前に、こちらから予測して対処する。先回りの気遣いが患者さまの満足度を高め、信頼獲得につながっていくのです。当院には『患者さまは神様ではなく、王様である』という合言葉があります。神様なら多少のことは許してくれても王様は許してくれません。気づきが満足度を上げるということは、その逆もまたあり得るということ。常に真剣に患者さまと向き合うことが繁盛の近道だと考えています」と小林院長。実際に患者さまとコミュニケーションをとる様子を見てみても、先生が主体となって患者さまに話をするのではなく、実は患者さまの話を聞いている時間のほうが長いことに気づく。聞くと、話す時間と聞く時間は4対6になるよう心がけているそうだ。耳を傾け、患者さまのことをよく知ろうとすることで、より多くの気づきが得られるのかもしれない。また「きちんと話を聞いてもらえた」という気持ちは安心や満足にもつながるだろう。先生たちの絶妙なバランス感覚によって、身体だけではなく心も癒される治療院を実現している。

最後に院の目標を聞いてみると「県下一の来院数を目指している」とのこと。どれだけ多くの患者さまに来ていただけるかが、患者さまに感動をご提供できているかの指標になるという考え方から決めたそうだ。毎日のべ140名もの〝王様〟に愛され続けている東邦鍼灸接骨院なら、すぐにでも県下一を達成できるだろう。そう思わせるパワーが小林院長の笑顔にはあった。